働いたら自分の年金が減る?!”在職老齢年金”を具体例で解説!【後編】

社労士(全般)
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前回は〔60歳前半〕の在職老齢年金について解説しました。

 

私の父は定年退職後の約1年間、失業保険をもらいながら自宅で過ごしました。

どちらかと言うとやせ型だった父の体はみるみるうちにぽっちゃりし、

専業主婦の母もそれまでと勝手が違う生活に次第にイライラ・・

その後再び働きだした父はイキイキしており、母の気分も安定したようです。

 

働くことはお金のためだけじゃない。そう実感しました。

 

ただ、ただ・・! 働けば働く程、年金が減るとしたら・・?

 

65歳以降の【在職老齢年金】制度について解説します。

 

〔65歳~70歳未満〕の在職老齢年金の仕組み

仕組み(ざっくり)

60歳台前半の「28万円」が「47万円」に代わります。

 

◆減額なしとなるとき(年金の全額を受け取れる)
[年金の月額]+[給与・賞与の月額]= 47万円以下
◆減額されるとき(28万円を超えた額の半分を年金から差し引かれる)
[年金の月額]+[給与・賞与の月額]= 47万円超

 

注)年金の月額(=基本月額といいます)とは:
 老齢厚生年金(報酬比例部分) ÷ 12 の金額 (加給年金額・経過的加算は含めない)
注)給与・賞与の月額(=総報酬月額相当額といいます)とは:

 標準報酬月額 + その月以前1年間の標準賞与額の総額 ÷ 12 の金額

 

  つまり、65歳以降は、 貰えるはずの年金と給料とボーナスの合計額を月額換算してみて、

47万円を超えるかどうかがキモなんですね。  

 

ちなみに、この壁となる[47万円]ですが、 65歳未満と異なり、

2022年4月以降も[47万円]のままの予定です。

〔65歳~70歳未満〕いくら年金が減額される?(計算方法)

減額される年金額の計算式はコレ↓です

 

{(年金の月額+給与・賞与の月額)-47万円}×1/2
 

  これに当てはめて、具体例で実際に計算してみましょう

 

◆具体例3
・65歳未満の会社員(または会社役員)
・年金は120万円(/年)
・給料は46万円(/月)
・過去1年間にもらったボーナスは48万円

① まず、[年金][給与][賞与]を月額に直す

 年金の月額→10万円(120万円÷12)
 給与の月額→46万円
 賞与の月額→4万円(年間ボーナス48万円÷12)

② [年金][給与][賞与]の月額合計が、47万円を超える額を確認する

 ①の3つを足すと「60万円」なので、47万円を超える額は『13万円』

③ 47万円を超えた額の半分が年金から差し引かれる

『13万円』×1/2=6.5万円

  ↓

  年金の月額は10万円から6.5万円を差し引かれ、3.5円になる

  つまり、

  年間120万円もらえるはずの年金が、42万円(▲6.5万円×12ヶ月)となる

 

    次は、さらに給料(報酬)をたくさんもらっている人で計算してみます  

 

◆具体例4
・65歳未満の会社員(または会社役員)
・年金は120万円(/年)
・給料は58万円(/月)
・過去1年間にもらったボーナスは48万円

① まず、[年金][給与][賞与]を月額に直す

 年金の月額→10万円(120万円÷12)
 給与の月額→58万円
 賞与の月額→4万円(年間ボーナス48万円÷12)

② [年金][給与][賞与]の月額合計が、47万円を超える額を確認する

 ①の3つを足すと「72万円」なので、47万円を超える額は『25万円』

③ 47万円を超えた額の半分が年金から差し引かれる

 『25万円』×1/2=12.5万円

  ↓

  年金の月額は10万円から12.5万円を差し引かれ、0円になる

  つまり、

  年間120万円もらえるはずの年金が、全くもらえないことになる

 

  オーマイガッ!

〔70歳以降〕の在職老齢年金の仕組み

仕組み(ざっくり)

 

65歳~70歳未満の仕組みと全く同じ内容で年金が減額または支給停止されます

ただし、例外があります!

 

  例外とは・・

実は一昔前は、昭和12年4月1日以前生まれの人は在職老齢年金制度の対象外だったため、

いくら給与(報酬)をたくさん受けていたとしても、年金は全額もらえました。  

 

これが、途中で変更になり、平成27年10月以降は、 昭和12年4月1日以前生まれの人であっても、

在職老齢年金制度の対象となりました。  

 

ということは、それまで働きながら全額受け取っていた老齢厚生年金が

平成27年10月を境に全額カットされ1円ももらえない人がいる

・・・ これはさすがに辛いということで、「緩和措置」が設けられました。

 

  これをここでは”例外”と表現しましたが、次はこの緩和措置について解説します。

昭和12年4月1日以前生まれの人への「緩和措置」とは?

平成27年9月30日以前から継続して勤務し給料(報酬)を受けている人の 年金減額の額を算出する計算式について、

本来の計算式ではなく別の計算式をつかう、というものです。

 

  具体的に言うと、

【本来の計算式】と別の計算式【=緩和措置の計算式】で計算した場合で年金停止額を比較し、

本人が得する方(停止額が少ない方)を採用することになっています。

〔70歳以降〕いくら年金が減額されるの?(計算方法)

 

A.本来の計算式
 ・・・65歳~70歳未満の計算式 のことです
B.緩和措置の計算式
 ・・・年金の月額+給与・賞与の月額)÷10
        ★AとBのうち、年金停止額が少ない方を採用する

 

先述の[具体例4]で、A.本来の計算式をつかうと年金が全額停止されることがわかったので、

同じ条件で【B.緩和措置の計算式】に当てはめて計算してみましょう  

 

◆具体例4
・65歳未満の会社員(または会社役員)
・年金は120万円(/年)
・給料は58万円(/月)
・過去1年間にもらったボーナスは48万円

① まず、[年金][給与][賞与]を月額に直す

 年金の月額→10万円(120万円÷12)
 給与の月額→58万円
 賞与の月額→4万円(年間ボーナス48万円÷12)

② [年金][給与][賞与]の月額合計の10%が年金から差し引かれる

 ①の3つを足すと「72万円」なのでその10%は『7.2万円』

  ↓

  年金の月額は10万円から7.2万円を差し引かれ、2.8万円になる

  つまり、

  A.本来の計算式だと全額支給停止されるところが、

  このB.緩和措置により、一部支給停止(一部支給)となる

 

  いーじゃん!となるわけです。

(まとめ)働く人の年金の実態。専門家へ相談も◎

  働けば働くだけ給料をもらえる。

でも給料が増えれば増えるほど、もらえるはずの年金が減っていく。

この都市伝説(?)の解説【後編】でした。  

 

65歳以降は今回取り上げた老齢厚生年金とは別に、老齢基礎年金が支給されます。

在職老齢年金制度による年金カットは、老齢厚生年金に対するものなので、

この老齢基礎年金は一切、減額・支給停止されません。

また、老齢厚生年金の経過的加算も同様に減額・支給停止されずにもらえます。  

 

したがって、会社役員など給料(報酬)が高い人は、65歳未満だと年金は0円も受け取れず、

65歳以降も、老齢基礎年金とわずかな経過的加算のみを受給されている人が多くいます。

 

ですので、出来るだけ在職老齢年金による支給停止がかからないようにするにしたいですよね。

 

特に停止額が大きい会社役員の方の場合、手取り額を下げずに老齢厚生年金も全額受け取れることも可能です。  

そのような知識がある社会保険労務士に相談してみることがその大きな一歩ではないでしょうか。  

また、在職老齢年金で年金をカットされている人は、

それなら退職するまでは年金をもらわず、繰下げ受給しよう」と考えたくなるかもしれませんが、

これにも落とし穴があります。   次回は、この「繰下げ受給」について解説します。

 
 
 
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